海外移住を決意したとき、さまざまな準備が必要ですが、その中でも「住民票を抜くべきかどうか」という問題は、多くの人が悩むポイントです。
住民票を抜けば税金や保険料の負担が軽減される一方で、日本国内での手続きが不便になる可能性もあります。この選択は、渡航期間や滞在先の状況によってベストな方法が異なります。
この記事では、住民票を抜くメリット・デメリット、そして最適な選択肢を分かりやすく解説します!
住民票について
住民票は、日本国内に住んでいる人の「住所」や「身分情報」を公的に証明する書類で、市区町村が管理しています。
行政が「誰が、どこに住んでいるのか」を正確に把握するための基礎資料となり、さまざまな手続きやサービスの場面で利用されます。
住民票の役割
1. 住所の公的証明 | 現在の住所を証明するために使われる。運転免許証取得や不動産契約、学校の入学手続きなどで必要。 |
2. 行政サービスの基盤 | 住民票をもとに税金、国民健康保険、児童手当、年金などの行政サービスが提供される。 |
3. 選挙権や国民健康保険の適用 | 住民票の住所が選挙区となり投票ができる。国民健康保険料や住民税も住民票を基に計算・徴収される。 |
4. 転出・転入手続きの基準 | 引っ越しや海外移住時に転出・転入届を出すことで、行政が移動後も個人情報を管理しサービスを提供できる。 |
5. 住民票の必要性 | 行政サービス利用の窓口として機能。パスポートや免許更新、銀行口座開設、年金手続き、選挙投票などに必要。 |
6. 海外移住・長期渡航時の扱い | 住民票を抜く(転出届提出)と日本の住民登録が一時解除され、税金や保険料の支払い停止。ただし国内サービスは受けられない。 |
住民票を抜くメリット
住民票を抜くことには、メリットとデメリットの両方があります。どちらが自分にとって有利かは、渡航期間、収入の状況、日本との関わり方(帰国頻度など)によって異なります。
以下にメリット・デメリットを整理しましたので、自分のライフスタイルや移住計画に照らし合わせて、最適な判断をすることが大切です。
① 住民税・国民健康保険料の免除 | 日本に住所がなくなることで、住民税・国民健康保険料の支払い義務がなくなり、長期滞在者にとって大幅なコスト削減に。 |
② 国民年金の免除申請が可能 | 保険料の支払いを免除申請できる。ただし、免除期間は将来の年金受給額に影響があるため要検討。 |
③ 日本国内の手続きが簡素化 | 非居住者になることで、日本での税務・行政手続きの手間が軽くなることがある。 |
④ 渡航先の制度に適合しやすくなる | 滞在許可・税務処理:現地で「新たな居住者」として登録が必要な場合、住民票を抜いておくとスムーズ。 国際協定の活用:日系の租税条約や社会保障協定が適用されやすくなり、二重課税回避・年金通算などがしやすくなる。 |
⑤ 海外移住に適した身分にできる | 日本の行政サービスを前提としない「海外居住者」としての立場が明確になり、現地制度との整合がとりやすくなる。 |
住民票を抜くデメリット
① 国民健康保険が使えなくなる | 非居住者となるため、国民健康保険に加入できません。海外滞在中は現地の保険や海外旅行保険への加入が必要です。 |
② 手続きが煩雑になる可能性 | 日本へ帰国した際に住民票の再登録が必要。住民票がないと銀行口座開設や携帯電話契約などが制限されることもあります。 |
③ マイナンバーカードの機能が停止 | 住民票を抜くと、マイナンバーカードは失効扱いになり、証明書のコンビニ発行などが利用不可になります。 |
④ 行政サービスが受けられない | 児童手当・福祉サービス・年金の一部手続きなど、住民票に基づく行政サービスが利用できなくなります。 |
⑤ 国内での住所証明が困難に | 不動産契約や金融機関の本人確認など、住民票による住所証明が必要な場面で不便を感じることがあります。 |
非居住者になると証券運用に制限がかかるケース
住民票を抜いた場合、証券口座を運用している方にはいくつかの制限が生じる可能性があります。
これは、証券会社や金融機関ごとの規定、ならびに日本の税制や金融関連の法律・規制に基づくためです。
住民票を抜く予定がある人は、利用中の証券会社の非居住者対応について必ず事前に確認しておきましょう。制限の程度は会社によって異なります。
新規取引の制限 | 多くの証券会社では、非居住者になると新規の株式購入や積立投資ができなくなります。 ただし、既に保有している資産はそのまま保持可能です。 |
口座維持 | 一部の証券会社では口座の維持は可能ですが、「資産管理のみ可」「新規取引は不可」という対応が一般的です。 |
NISAの利用停止 | NISAは日本国内居住者のみ利用可能。住民票を抜くと、非課税枠の利用はできなくなり、新規投資も不可になります。既存の資産は非課税のまま保持できます。 |
積立の停止 | 投資信託の積立は自動的に停止される場合があります。事前に証券会社に確認しましょう。 |
配当金の課税 | 配当金や分配金は、源泉徴収税がかかることがあります(国内所得とみなされるため) |
住民票を抜くとマイナンバーカードはどうなる?
カードは使えなくなる | マイナンバーカードは住民票に基づいて発行されているため、住民票を抜くとカード機能が停止され、証明書発行や電子申告などが利用できなくなります。 |
番号自体は残る | 住民票を抜いてもマイナンバー(12桁の番号)は削除されず、帰国後に再び同じ番号が使えます。 |
カード自体は保持可能 | 条件付きでカードを手元に残すことはできますが、機能は無効化されるため、使えません。 |
再発行は可能 | 帰国後に住民票を再登録すれば、同じ番号でマイナンバーカードを再発行できます。 |
私が住民票を抜いた理由と実際の影響【タイ在住者の体験談】
私は現地採用としてタイに単身渡航し、当初から2年以上の滞在が確定していました。現在は年に2、3回日本に一時帰国していますが、日本での収入はなく、すべてタイで得た収入で生活しています。
このような状況を踏まえ、渡航前に住民票を抜くという決断をしました。
住民票を抜いた理由(メリット)
メリット | 内容 |
---|---|
住民税が不要に | 日本の非居住者になるため、住民税の課税対象外になります。 |
国民健康保険料が免除に | 加入義務がなくなり、月々の保険料負担がゼロに。 |
日本での所得税なし | 日本国内での収入がないため、課税対象になりません。 |
税務手続きの簡略化 | 日本の確定申告などの手間が大幅に軽減されます。 |
感じたデメリット
デメリット | 内容・影響 |
---|---|
一時帰国中の医療費が高額に | 健康保険がないため、歯科治療が1回1万円以上の自費診療に。 |
証券口座の制限 | 非居住者になると株式やNISAの買付けに制限がかかる場合があります。 → 私は一時的に買付けを停止し、口座を維持する対応を選びました。 |
マイナンバーカード利用不可 | 利用停止され、コンビニでの証明書発行などができなくなります。 |
💡【補足】保険診療を受けるために住民票を一時的に戻すことも検討しましたが、海外収入が日本の所得税対象となるため、結果的に保険料も高額になるため断念しました。
国民年金の取り扱い
住民票を抜いても、国民年金には任意で継続加入が可能です。私は将来の年金受給を見据えて、引き続き加入しています。
項目 | 対応内容 |
---|---|
年金加入 | 任意で継続加入中 |
保険料の支払い方法 | 2年前納を選択(割引あり) |
ちなみに、国民年金は前納することで割引を受けられます。
以下は、前納の種類ごとの納付額と割引額の一覧です。※1回あたりの納付額は令和6年度の金額です。最新情報は日本年金機構の公式サイトでご確認ください。

国民年金の支払い方法の比較
支払い方法 | 特徴 | 割引率 |
---|---|---|
現金払い | 納付書で銀行・郵便局から支払う | 標準的 |
口座振替 | 銀行口座から自動引き落とし。前納で最も高い割引が適用されることも。 | ⭐最も高い |
クレジットカード | クレジットカードで前納が可能。ポイント還元あり。口座振替より割引はやや低め。 | 中程度 |
住民票を抜いていた期間(海外在住期間)は、日本では「国民年金の加入義務が免除されている期間」とみなされることがあります。
この「免除期間」は、帰国後に未納分として追納することが可能です。ただし、追納できるのは過去10年以内の未払い期間に限られます(2026年3月までは特例で10年、それ以降は5年になる予定)。詳しくは市区町村役場や専門家に相談して具体的な対応を確認しましょう。
住民票を抜く判断は「トータルの損得」で
私にとって住民票を抜いた一番のメリットは税金や保険料の免除による経済的な負担軽減でした。
一方で、帰国時の医療費や証券口座の制限など、デメリットも無視できないものでした。
最終的には、海外収入が日本の課税対象にならないことを優先し、住民票は抜いたままにしています。
住民票の扱いは、滞在予定の長さ、収入源、保険や投資の考え方によってベストな選択が変わります。ご自身の状況と照らし合わせて、最も合った対応を検討してみてください。
移住初年度の確定申告について
🔸重要な注意点
住民票を抜いて非居住者になっても、移住初年度に日本で所得がある場合は確定申告が必要です。
特に、渡航直前に得た収入や日本国内の資産から生じる所得がある場合は、必ず申告を忘れないようにしましょう。
非居住者になった後も、日本国内で得た所得については引き続き申告義務があります。
不安な場合や複雑なケースは、税理士や税務署に相談するのが安心です。
日本での所得がある場合
- 日本で働いていた期間の給与所得
移住前に日本で働いていた場合、その期間の所得については申告が必要です。 - 日本国内の不動産収入や株式の配当などの所得
海外移住後も日本国内で発生する所得は申告の対象になります。 - 年間の所得が一定額を超える場合
サラリーマンであれば退職後に副収入があったり、フリーランスや個人事業主であれば、一定の所得以上で申告義務があります。
非居住者扱いになるタイミング
住民票を抜いた時点で非居住者となりますが、税法上の「非居住者」とみなされるのは、生活拠点が海外に移り、国内での住所や生活の拠点がなくなった時です。
この判断が曖昧な場合でも、渡航初年度は通常、「居住者」として扱われることが多いです。
まとめ
海外移住時に住民票を抜くかどうかは、税金・保険・手続きの負担に大きく影響します。以下のポイントをもとに、自分にとって最適な選択をしましょう。
判断基準 | 抜かない方が良い場合 | 抜いた方が良い場合 |
---|---|---|
渡航期間 | 数か月程度の短期滞在 | 1年以上の長期滞在 |
日本での収入の有無 | 日本でも継続的に収入がある | 収入がすべて海外、または日本では無収入 |
税金・保険の負担 | 負担に耐えられる or 保険を利用したい | 高額な住民税や健康保険料を避けたい |
日本への一時帰国の頻度 | 頻繁に帰国(証明書・医療・銀行手続きが必要) | ほとんど帰国しない |
渡航先の制度との相性 | 現地での保険やビザに影響なし | 現地制度との整合性を取る必要がある |
- 住民票を抜くメリット
- 住民税・健康保険料の支払いが不要に
- 海外収入への日本の課税を避けやすくなる
- 現地の保険制度やビザ申請で不利になりにくい
- 住民票を抜くデメリット
- 国民健康保険が使えず医療費が全額自己負担に
- 日本帰国時の手続きが増える(再登録など)
- 証券口座・マイナンバーカードなどに制限がかかる
💡長期的なライフプランや収入の有無、日本との関わりを考えたうえで判断を。
わからない点があれば、市区町村や税務署、社会保険事務所、または専門家に相談し、最新の情報をもとに手続きを進めましょう。
不安に思うことも多いかもしれませんが、ひとつひとつ整理して対応することで、安心して海外生活をスタートできます。